”隠された情報を公開しよう。そうすれば世界が変わる”と

BLOGOSでの書評を見て、読んでみた。最近人々の記憶から薄れつつあるウィキリークス

日本人が知らないウィキリークス (新書y)

日本人が知らないウィキリークス (新書y)

七人の著者がそれぞれの視点から解説を行っている。私は「ウィキリークスを支えた技術と思想(八田真行)」の第四章に興味があったので、真っ先に読んでしまったが、他の章もどれも面白かった。共通しているのは、前書きにあるとおり、「ウィキリークスを表面的な善悪論で語ることには意味がない。いずれにせよ、私たちはすでに「ウィキリークス以後」の世界に入ってしまった」という認識。一部の人には、頭の痛いことだろうけど。

匿名性の確保
第四章は、リーク時にいかにして匿名性を確保するかについてのインターネット技術の話で占められている。

当たり前だけど、YouTubeであれ知恵袋であれ、アクセスすればサーバにアクセス時間や携帯機種やIPアドレスが載ったログが残される。そして、GoogleであれYahoo!であれ、運営会社は警察や検察の要請にはすぐさまログを引き渡す。ネットの世界は匿名性は低い。「まともな匿名性とは、相当な配慮や技術的工夫を凝らさないと確保できないもの(p.113)」、これはやっと一般の人に知られてきたのじゃないかな?

ウィキリークスは、できるだけログを取らない特殊なホスティング業者(スウェーデンのPRQ)を利用していたとされるが、重要な情報をリークする側からすれば、彼らが主張していることは嘘かも知れない、そもそもウィキリークス自体がCIAのような組織が運営している(!)壮大なハニー・ポットかもしれない、そんな疑いさえ完全には否定できない。リーク側は「誰も」信頼すべきではない。それでも、インターネット上でリーク側の匿名性を守るための技術が「Tor=The Onion Router」と呼ばれるもの。これも全面的に信頼すべきものではないけど、とりあえず。

しかし、まあ、リークする側になる人はごくまれ。むしろ私は、情報をダウンロードする方法すら知らなかったw たとえば、有名な「歴史の保険」ファイル、insurance.aes256(暗号化されているが、ウィキリークスかアサンジ氏の身に何かあった場合、複合鍵が配布される)も、BitTorrentを使って落とせるらしい。基本的にはBitTorrentの好きなクライアントソフトをインストールし、トレント(*.torrentというファイルにダウンロードの指示が書かれているのでそれを)読み込んでダウンロード開始。ファイルが1.4GBもあるっていうのがあれだけど、複合鍵が配られたときには、アニメ『サマー・ウォーズ』ばりの「世界市民体験」ができるかもしれないし、そのうち落としてみようかな。


日本に関連する暴露
ウィキリークスにどのようなリーク情報が掲載されて、それが世界中の市民にどのような影響を与えてきたのかについては、第一章、第二章、第五章が詳しい。日本のニュースではこれをほとんどやってくれなかった気がする。

YouTubeに上がっている、2009年12月ベルリンで行われた、「カオス・コンピュータ・クラブ」で行われた公演でも紹介されている。日本語字幕、本当にありがたいですね! アイスランドのニュースキャスターが素敵すぎると思いませんか。

動画は、TEDにもインタビューがありますね。観客が総スタンディング・オベーション

TED: ジュリアン・アサンジ 「なぜ世界にWikiLeaksが必要なのか」

日本に関する暴露はまだ少ないけど、たとえば、2010年2月22日ソウル発のキャンベル米国国務次官補と金大統領補佐官との会談。

「金は“民主党は自民とは完全に異なる”とのキャンベルの評価に同意した」
「金は“岡田外務大臣、管財務大臣の如き、民主党の公の立場にある人物と直接接する必要がある”とのキャンベルの指摘に同意した」
ここでは、「民主党自民党と完全に異なる」として鳩山首相との距離を示すと同時に、「岡田、管は対話すべき相手」とされている。(p.158)

管さんが最近「絶対辞めない! 支持率1%になっても辞めない!」と、不自然なほど強気になった(笑)のは、「アメリカと話がついたからじゃないの?」と勘繰ってしまいたくなる内容。昔からアメリカに支持されない政権は短命に終わるという噂が根強くあるけど(官僚組織、とくに検察がそういった政権をつぶすなどとね)、まあ本当かどうかはともかく、ウィキリークスが手に入れた東京発の外交文書は5697通もあるのに、ほとんどまだ公開も分析もされていないというから、早く表に出てきて欲しいものですね。


全体として、ウィキリークスのやったことが世界中に知れ渡り、似たようなサイトも次々立ちあがっている現在、やはり彼らは「時代のページを一つめくってしまった」んだなと思います。ジャーナリズムにとっては、一次情報は誰にでも公開される時代がやって来る、ということ(日本の記者クラブもその認識を早く持った方がいいのでは)。それでも、多くの一般人は一次情報を直接閲覧するような時間はないので、分析され、編集された二次情報、ジャーナリズムはこれからも価値を失わず、むしろ情報が増えれば増えるほど、大事になっていくと思います。「時代のページ」を逆に戻そうという試みをする組織もあるだろうけど、長い目で見れば成功しないでしょう。

ペイ・フォワード [DVD]

ペイ・フォワード [DVD]

ペイ・フォワード』という映画(これは『時計じかけのハリウッド映画』でも紹介されていた)で、主人公のトレバー少年は、社会科の授業でこんな宿題を出される。"Think of an idea to change world, and put it into action."(世界を変えるアイディアを考えて、それを実践してみよう)。トレバー少年が考えたやり方は素晴らしい。しかし、この宿題を、かつてのアサンジ少年が聞いたら、きっとこう考えたでしょう。

「隠された情報を公開しよう。そうすれば世界が変わる」、と。