組織の歯車になることが、人生で最高の職業の一つだと

TOEICのためにぬるく勉強している、『Z会速読・速聴英単語 Business』で、印象的な文章があったのでメモ。※2011/2/9 文章修正など。
それはKDDIau)をつくった、千本倖生氏の記事(p.320)。

千本氏は、1966年にNTTに入社し、18年間勤めた後、“通信網という今後重要になるインフラを国家が独占しているのは国民にとってよくない、NTTと対等な競争相手を用意しておかなければならない”と、KDDIを立ち上げた方です。その後も、5つもの会社を立ち上げる、骨の髄からのアントレプレナー

でも、印象に残った一文は、残念ながら、その企業家精神ではなく。千本氏はNTTにいたときにアメリカに留学し、そこでカルチャーショックを受けるわけですね。「アメリカでは、日本で最も重要な企業の1つに勤務していることは大したことではなかった。肥大化した独占企業に勤めるという考えをあざ笑う者さえいた」。そのとき、日本ではこう考えられていた。

To become a cog in such a mighty machine was considered one of life's highest callings.
(このように巨大な(mighty)組織の歯車(cog)になることが、人生で最高の職業(calling)の一つと考えられていた。)


これが、40年も経った今でも当てはまるなあ、としみじみ思ってしまったのです。なぜか?

1945年に日本は一度リセットされ、新しい国家の目標が、無意識的に定められました。それまでの軍事的行動が否定されたので、今度は「経済発展によって」、国際社会で国家の地位を高めようと決意したのです。それは成功しました。その後40年かけて1980年代の終わりごろに絶頂期を迎えます。

制度や法律だけでなく、思想や慣習なども渾然一体となった、現在の「日本という社会」=「日本というシステム」。それは、国家の非公式の最優先課題である、「際限なき経済発展」のために最適に整えられたものでした(by『人間を幸福にしない日本というシステム』)。

基本的には、2011年になっても、私たちはその延長線上にいます。日本では、今でも「産業、企業>労働者、国民」。男性は家庭や自分の自由よりも「会社」を優先させることが当然とみなされます。官僚は、労働者よりも産業の振興を優先します(それが、労働者の利益になると信じているから)。「会社」という漢字を逆にすると「社会」になるのは象徴的です。「会社」なくして、戦後の日本社会、「日本というシステム」はありえなかった。


「巨大な組織の歯車になることが、人生で最高の職業の一つだと考えられていた」―――。


これは(システムに大分ほころびは出てきているものの)今でもそうだと思うのです。なぜなら、何十年も前に、この信念に当てはまるように、実際に社会の仕組みが設計されたからです。つまり、巨大な組織の一員になると、平均的により多くのリソースの分配を受けられる、金銭的に報いられるようになっています。

大企業と中小企業の生涯賃金格差は0.7億円(ダイヤモンド2010/8/28号)。正規社員と非正規社員生涯賃金格差は1.7億円(大卒男性正社員と、生涯非正規社員男性の場合、同)。他にも、手厚い共済年金や厚生年金があるし、サラリーマンの妻が個人で年金を払わなくて済む3号被保険者制度など、あからさまな制度もまだ残っています。

学生が、就職できなかったら留年してでも新卒採用に乗ろうとするのも、大企業に人気が集まるのも、みんな何となく「日本というしくみ」が分かっているから。それがこの先何十年も続くとは思っていなくても、今はとりあえずまだ。外資系に行き、何らかの理由で挫折して、やっぱり日本では大企業が一番などと言い出す人もそうです。


………もちろん、少数派はいつの時代もいます。千本氏のように起業して成功する人もいます。芸能人もスポーツ選手もいます。そういった「息抜き」「遊び」がないシステムは悪夢なだけでなく、硬直化という意味で望ましくないですから。


それにしても、一体誰が今の「日本というシステム」を設計したのでしょうね?


そして、歴史の教科書を開いてみると、何事にも必ず変化が訪れますが、戦後に立ちあがった「現在の日本システム」が終わりを迎えて、再び1945年が到来し、そのカオスの中から、次の「新しい日本システム」が生まれるのはいつなんでしょうか?

人間を幸福にしない日本というシステム (新潮OH!文庫)

人間を幸福にしない日本というシステム (新潮OH!文庫)

16年も前(1994年)に、今池田信夫氏やブロガーたちにあれこれ言われていることが、外国人の手によって、指摘されていたんですね〜(笑)。