映画『フィクサー』を、ハリウッドの黄金法則で。

映画『フィクサー』を観た。これは、トニー・ギルロイという有名な脚本家の監督作だそうだ。
さっそく、先日の『時計じかけのハリウッド映画』で考察してみる。

「3アクト・ストラクチャー」なんて黄金法則は当然知り尽くしているベテラン脚本家だけあって、ひねりが効いている。誰でも分かる派手な「盛り上がり」は、ない。うらぶれた中年男の「終わりなき日常」みたいな話である。
でも、それだけでもないようだ。

ここから先はきわめてネタバレなので、気をつけること。

まずは、「インサイティング・アクシデント」
冒頭の車の爆破がそれかと思いきや、最初に見た観客は何のことだかさっぱり分からない。
実は、後でもう一度繰り返されるこのシーンこそ、「セカンド・ターニング・ポイント」なのでは。

と、その前に、「イントロダクション」。これは、車の爆破の前に、ひき逃げした大金持ちのところに出向くシーン、4日前に戻って、NYの高層ビルのオフィスで淡々と仕事をこなすシーンだろう。600人からの大規模な法律事務所に所属しながら、もみ消し専門の裏仕事ばかりやっている中年男。
本当の「インサイティング・アクシデント」、同僚の弁護士アーサーが精神錯乱を起こして、もみ消し屋として駆けつけたときから、主人公の“非日常”は始まる。

「ファースト・ターイング・ポイント」は分からなかった。もう一度見れば分かるかもしれない。というか、サブストーリーにあたる主人公の息子や親族との人間関係は、一回見ただけでは分からないことばかり。でも、この映画の「テーマ」は、車を止めて息子に言った言葉と関係がある。

「ミッド・ポイント」は、借金の8万ドルと引き換えにアーサーを売らなければならなくなることか。
「セカンド・ターニング・ポイント」の前に、主人公の凹みがMAXになる。農薬会社の集団訴訟を担当していたアーサーが自殺に見せかけ殺され、お通夜(?)ではボスの本音を聞いてしまい、アーサーが残した内部文書を手にするも、主人公には公表する気力はないように見える。

そして、冒頭の車の爆破に戻って、ブレイクスルーが起こるわけだ。といっても、描き方は少しも派手ではない。クライマックスにもエンディングにも、勝利の余韻みたいなものはあまりない。

そもそも、主人公の「ゴール」は何だったんだろう? 最初はアーサーの件をもみ消すこと、がゴールだった。それが、ブレイクスルーで変わってしまった。「エンディング」で、主人公は確かに成長はしているだろうけど、事務所は莫大な報酬を取り損なっただろうし、主人公はたぶんリストラされるだろうし、現実的な「ご褒美」は何もないように見える。

50ドルぶん走っているタクシーの中で、すがすがしさと同時に“大人の苦い現実”的な空気を、『オーシャンズ』とは全然違うジョージ・クルーニーがよく醸し出していた。